
私と息子の古い写真。時は一九六十年代。
私の世界は坊やの世界。境界のない、一体となって。
私の意識、注意、エネルギー、全瞬間が子どもにそそがれる。
捧られる。差し出される。
二十四時間、子どもに対する責任をおわされて疲れ切り、
子どもをうとましく感じれば、
私はおかしいのか、母性愛に欠けているのではと自分を責める。
一方、子どもの可愛さに酔いしれる、幸せと歓喜の時間。
二律背反の日々。
私の中で叫ぶ者がいる。
このままでは窒息しそう。
どうぞ、私を生かして。見殺しにはしないでと。
母親の私は 叫ぶ私を黙殺する。
どうして? と私。 母親の私は答えない。
それから何年も経ってその答えを
「母性という神話」(エリザべート・バダンテール著)に見つけた。
社会、家族が私に刷り込んだもの。
多くの女が母性の罠にからめとられているのだ。
新作「REAL? MOTHERHOOD」における
ベビーベッドには西洋の棺のイメージが重なっている。
母親の中の女の存在を葬る場所。誕生と埋葬。
死の気配を持ちながら、複雑なことに
必ずしも死の概念は否定的ではない・・
母性愛とは女にはじめから備わった自然や本能ではなく
近代が生み出した歴史的産物にすぎない。
出光真子・作家テキスト
